最高裁判所第二小法廷 昭和40年(オ)1265号 判決 1967年7月21日
上告人
茅野経夫
外一名
右両名訴訟代理人
和田珍頼
被上告人
持田謙一
右訴訟代理人
直野喜光
主文
原判決を破棄する。
本件を広島高等裁判所に差し戻す。
理由
上告代理人和田珍頼の上告理由一について。
原判決は、上告人経夫が昭和二七年一一月訴外茅野治郎八から本件家屋の贈与を受けた事実を確定したうえ、所有権について取得時効が成立するためには、占有の目的物が他人の物であることを要するという見解のもとに、上告人経夫が時効によつて本件家屋の所有権を取得した旨の上告人らの抗弁に対し、上告人経夫は自己の物の占有者であり、取得時効の成立する余地はない旨説示して、右抗弁を排斥している。
しかし、民法一六二条所定の占有者には、権利なくして占有をした者のほか、所有権に基づいて占有をした者を包含するものと解するのを相当とする(大審院昭和八年(オ)第二三〇一号同九年五月二八日判決、民集一三巻八五七頁参照)。すなわち、所有権に基づいて不動産を占有する者についても、民法一六二条の適用があるものと解すべきである。けだし、取得時効は、当該物件を永続して占有するという事実状態を、一定の場合に、権利関係にまで高めようとする制度であるから、所有権に基づいて不動産を永く占有する者であつても、その登記を経由していない等のために所有権取得の立証が困難であつたり、または所有権の取得を第三者に対抗することができない等の場合において、取得時効による権利取得を主張できると解することが制度本来の趣旨に合致するものというべきであり、民法一六二条が時効取得の対象物を他人の物としたのは、通常の場合において、自己の物について取得時効を援用することは無意味であるからにほかならないのであつて、同条は、自己の物について取得時効の援用を許さない趣旨ではないからである。
しかるに、原判決は、右と異なる見解のもとに上告人ら主張の取得時効の抗弁を排斥したものであつて、右民法一六二条の解釈を誤つた違法があるから、その余の論旨について判断を加えるまでもなく、破棄を免れない。そして、上告人ら主張の右取得時効の抗弁の成否についてさらに審理を尽す必要がある。
よつて、民訴法四〇七条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。(奥野健一 草鹿浅之介 城戸芳彦 石田和外 色川幸太郎)